森の香り、湯気の向こうに——岩手のしいたけと、あの頃の食卓。
昼下がりの台所に、コトコトと小さな音が響いていた。蓋の隙間から白い湯気が立ちのぼり、鼻の奥をくすぐるのは、甘辛い醤油とだしの香り。母が作る「しいたけと鶏肉の煮…
静けさを味わう、岩手の食メディア。
昼下がりの台所に、コトコトと小さな音が響いていた。蓋の隙間から白い湯気が立ちのぼり、鼻の奥をくすぐるのは、甘辛い醤油とだしの香り。母が作る「しいたけと鶏肉の煮…
朝の空気がすこしずつ冷たくなり、山の木々が、光を受けてほんのりと赤く染まりはじめる。岩手の山あいでは、その頃になると、栗の実がぽとり、ぽとりと道端に落ちてくる…
夜明け前の港に、ひと筋ずつ灯りが点る。岩手・大船渡の空は群青色で、波の縁だけが白くほどけている。やがてエンジン音が近づき、甲板に金属の触れ合う乾いた音が続く。…
風が少し冷たくなってきたころ、岩手の港町では、ひっつみ汁の季節がはじまる。 鍋の中で、手でちぎった小麦の生地がゆっくり踊る。出汁の香りが立ちのぼり、ごぼうや人…
朝、湯気が立っていた。何の変哲もない、味噌汁の湯気。でも、その瞬間だけは、世界が少しやさしく見えた。 東京で暮らしていたころ、毎日が騒がしく、何かを追いかけて…